UEC-IM(URA)インタビューシリーズ No.007

エンジニアリングに必要な理系頭,組織をリードするのに必要な文系頭,2つのCPUを同時に動かす。

株式会社ビズリーチ 取締役CTO 竹内真(たけうち・しん)

 

会員制転職サイト「ビズリーチ」の企画運営会社ビズリーチCTO(技術担当取締役)の竹内真さんを訪ねた。竹内さんは電通大の卒業生である。ビズリーチは転職を考えるハイクラスのマネジャーやエンジニアと企業とのマッチングサイトの運営会社である。創業社長の南壮一郎氏が竹内さんの卓越したシステム構築能力を見込んで,竹内さんをCTOとして招聘。竹内さんは2ヶ月で同社のシステムを構築しその後は次々と新しい機能の開発と実装を進めている。結果,2008年は2人だった同社が2013年末には200人の組織へと成長。エンジニアリング部門の統括だけでなく人材育成をはじめとするマネジメントにも力を注ぐ竹内さんに話を聞いた。

【インタビューは2013年12月4日。写真と文/IM(URA) 安部博文)】

▲渋谷本社のエンジニアリング部隊フロアを背景に。

竹内さんは電通大の卒業ですね。まず現役の学生に向けてメッセージをお願いします。

竹内  はい、, 私は情報工学科(当時)の卒業です。電通大は素晴らしい大学です。良い授業をしてもらったという思いがあります。それを在学中の学生に伝えたい。

では具体的にお願いします。

竹内  IT業界で戦っていると,この業界は高学歴社会であることを感じます。東大,ハーバード,スタンフォードの人が多い。その中で電通大は良いぜ,ということを現役の学生に分かってもらいたい。電通大では,とにかくものすごく基礎的なことを大量に教わります。例えば,ボタンを押して0と1のランプを光らせてビットという単位を体で学ぶとか。仕事でコンパイラを話題にするとき,電通大では正規表現の勉強を一年かけてやった,と言うだけで,相手はビビリます(笑)。普通やらないだろうというくらい基礎的なことからみっちりとやる。地道に基礎の勉強をやり続けることは深い理解につながります。それが仕事の場に出た時,実力の差になって現れる。賢い人はおいしい所をピックアップして器用にやります。でも実は足元が弱かったりする。障害が発生した時,なぜそうなったのか,どう対処すれば良いのかを考えるには,基礎から技術を理解していないと立ち往生します。電通大で学ぶ地味な勉強はその基礎を身につける過程です。私が現役学生の時,勉強していることが社会でどう役に立つのか,つないで考える力はありませんでした。それが分かるようになるまでには時間がかかりました。そこを現役の時から理解しておくと良いんじゃないかと思います。

学んでいることが将来どう役に立つのかイメージがつかめると授業にもヤル気が出るでしょうね。

竹内  はい。電通大にいるときは当たり前の勉強や知識が,社会に出てみると,扱っている技術の裏打ちを理解するのに役立ちます。電通大で学ぶ知識はものすごい基礎ですから,エンジニアと議論している時,自分の発言の根拠になる。技術を基礎から理解できているので,結局,おいしいところ取りをする器用な人たちより圧倒的に強い。学生時代には分かりませんけどね。
もう一つあります。会社を経営する立場で言うと,経営でいちばん大事なことは会社を潰さないことです。会社が潰れないようにするには,お金が回る必要がある。そのために会社はお金を稼ぐわけです。会社がお金を稼ぐ活動をするとき,たくさんの経営判断が必要です。判断するとき人は感性や論理を働かせます。電通大の学生が学んでいる電気・電子・情報の分野はものごとを論理的に考える世界です。この世界の人は論理的な思考に慣れています。ところが実際に社会に出てみると分かりますが,論理思考ができる人は想像以上に少ない。多くの人は感性で動いています。困ったことに論理と感性は共存しにくい。しかし,論理思考ができる人は,自分で意識することで,感性で動く人に理解してもらう思考回路も持つことができます。

理系の人間はトレーニングすれば感性型の人とコミュニケーションできる有利さがあるということですね。

竹内  そうです。学生は,大学を修行の場だと思えば良いのです。目の前の楽しいことに時間を浪費するよりも,先人が積み重ねた知識やカリキュラムをしっかり学んだ人間のほうが,結果が良いものになると信じて頑張って欲しいと思います。
論理的な考え方を鍛えながら,感性で判断する思考の人を認めてコミュニケーションを取れる器量を持つ。自分とは違うタイプの人と協力する気持ちを持つ。というのは,論理的な思考をする人は感性的な人を頭からバカにする傾向があるから(笑)。自分を成長させたいと思ったら,自分とは違うタイプだからといってすぐ排除してはダメです。自分と違う人を認めることは,結果的に自分にとってプラスに働きます。

非論理,感性を排除するというのはエンジニアにはよくあります。

竹内  エンジニアが技術を追求するのは大事なことです。でも技術の世界だけしか見ていないと,他のことが分からなくなる。それではイノベーションが起きません。技術を突き詰めると,面白いものは出来るでしょう。でも私は,その先が大事だと思っています。技術の先には使う人がいます。使う人のイメージをエンジニアが持っているかいないか。それがエンジニアが作ったものが人の生活にフィットするものになるかどうかの違いになるからです。

エンジニアだから技術の追求だけで良い,ということではない。

竹内  そうです。技術の追求だけではない。人の気持が分かるエンジニアでありたいですね。そのためには技術のフィールドだけでなく,デザイナ―の立場,ユーザーの立場など複数のフィールドでものを考える。すると技術だけでは足らないものが見えて来ます。そういう視点からイノベーションが起きるのではないでしょうか。だからエンジニアは多くの人と共有体験を持つことが大事だと考えています。

論理+感性という2つのフィールドを理解する。これは竹内さんの生き方の哲学ですね。

竹内  はい。実は,2人以上の人生を生きたいと思っています。エンジニアの人生とそうではない人の人生と。だから1日16時間必要です(笑)。

すると睡眠時間が減りませんか。

竹内  寝る暇がないというか(笑)。今,ビズリーチはとても早いペースで人を増やしています。2013年の夏に掲げた12月までの全社の採用人数目標は100人でした。これは11月で達成。次の目標は2014年7月までに150人です。2014年8月には350人の体制になります。エンジニア・デザイナーの採用面接だけではなく、必要に応じて他の職種であっても面接することがあります。だからビズリーチのメンバー全員の考え方や気持ちを理解しておきたい。例えば人間関係に悩んでいる人がいるとします。相談を聞く。その時の私の役割は,悩んでいる本人をその時点のレイヤーよりも一段高いレイヤーに進んでもらうことです。こんなミクロなことを経営者がやる必要があるのかというご指摘もあるかも知れません。けれども,組織に新しい人がどんどん入ってくる今だから必要なことなので,草の根活動的にやっているところです。

メンバーを上の一段上のレイヤーに引き上げるというのは,まさにビズリーチの教育活動です。これも竹内さんの組織づくり哲学ですね。

竹内  そうです,人と共有体験をベースにした私のミッションです。

竹内さんはビズリーチのCTOですよね。お話を聞いているとCEOのようですね(笑い)。

竹内  CEOは南です(笑)。私の頭の中では,組織作りをリードする文系的CPUとエンジニアリングをリードする理系的CPUという2つのCPUが同時に動いている感覚があります。メンバーと草の根的に話をしているのは,メンバーにビズリーチの組織哲学を植え込みたいからです。
CTOの役割は,第一義的には経営方針に基いて最上流の設計をすることです。この時,経営と技術のバランスに立って,技術リスクを最小限にする選択や判断をします。私は技術よりも経営よりのCTOですね。

趣味のお話をお聞かせください。

竹内  最近はワインを勉強しています。というのは,ワインの歴史,産地,味などを勉強していると,経営やエンジニアリングを別の視点から捉えることになるからです。ITのエンジニアリングは歴史が浅いので,チームに哲学を持たせる上で歴史のあるワインから学べることはたくさんあります。また,社交の場でもワインは登場しますから,ワインの知識が会話の材料にもなる。会話の相手と共有体験ができて一石二鳥です。
ワインとインターネット上のサービス活動は,一見,全然違うように見えて,実は似ている点があります。例えば,ワイン職人とエンジニア。売れているものでも職人に言わせるとあんなもんはダメという場合がよくある(笑)。しかし,ビジネスの目で見ると,ワインでもインターネットビジネスでも売れるものが良いものです。
良いワインができるには,天と地と人という3つの要素が必要です。天とは天気,地とはぶどうとぶどう畑,人とはワイン職人のことです。インターネットビジネスに当てはめると,天がマーケットや景気,地は人と組織,人はエンジニアやデザイナーです。良いワインは3つのバランスが優れています。これは3つの要素が均等に良いことが大事ですが,どれか一つが飛び抜けて個性を発揮しているものもあります。そういうことも組織やチームづくりのヒントになります。確率的に良いことが多い組織やチームにしたいんですね。

趣味と仕事が結びついています。それにしても,いつごろから今のように戦略的なものの考え方をするようになったのですか。

竹内  2008年です。この年の3月にレイハウオリというインターネットメディアの会社を作りました。社員が夢を持てるようにしたいという思いから,身だしなみにも気をつけました。頑張れば良いことがある,仕事もプライベートも充実している,というイメージを社員に持ってもらいたいので,アイロンがきちんとかかったシャツを着るなど清潔感を重視しました。レイハウオリは現在80人規模です。同じ年の12月に南の話を聞いてビズリーチのシステム構築をスタートしました。ビズリーチは今,200人規模です。レイハウオリのCEO,ビズリーチのCTOとして,大きな船の舵を握る立場になって気づいたことがあります。それは,自分優先では人はついてこないということ。だからみんなのことが第一。余ったことで自分のことをする。その順番です。私利私欲が減った気がします。

チャレンジの連続ですね。

竹内  仕事の話が来ますよね。その時,自分ができると思われているから来るんだとポジティブに解釈するか,これだけ今頑張っているんだからもうこれ以上は無理とネガティブに解釈するか,捉え方で人生の明るさが決まります。人から期待されて,信頼されて,仕事が自分のところに来るわけです。そのタイミングは,だいたいものすごく忙しいとき,頑張っているときです。その時に,無理,できないと思ったらそこが自分の限界です。実際,時間的な限界が来ますよね。その時は誰かに任せるしかありません。自分だけではできない。だから「頼むからやってくれないか」という真摯な気持になります。発注者が外注に仕事を振るのとは全く違うマインドです。お互いを尊重して仕事をするチームができます。心の底から「ありがとう」と言える。チームのおかげで自分の限界を突破できる。限界を突破したところで何かをやると得られるものが大きいと思います。だから忙しくても話が来たらチャレンジします。

自分の限界+助けてくれる仲間=チームでチャレンジしてブレークスルーですね。

竹内  経営はリスクをヘッジして成功確率を高めることに尽きると思っています。そのために愚直にやる。リスクヘッジの確度を挙げるため急拡大した先輩企業のケースに学んでいます。先人や歴史に学び,同じ失敗を避ける。先人に学ばず,同じ失敗を繰り返すのは愚の骨頂です。

新卒の採用では面接の時,どこを見ていますか。

竹内  言葉のキャッチボールができるかどうか。相手と考えを共有するスタンスを取れる人かどうか,という点を見ています。ジョークやプライベートに踏み込んだ質問で,どんなやりとりができる人なのか。エンジニアはコミュニケーション能力を磨いていない人が多いので,「プログラムとのコミュニケーションの前に,人とのコミュニケーションが大事だよ」という話を説きます。それはもう切々と説きますので(笑),素直に納得してくれる人はセンスがあると思います。後は地頭の良さ。何でも良いから,何かに頑張ってきた人。こういう人は学習サイクルの基盤を持っています。学ぼうという姿勢があるかどうか。好奇心,論理思考。こういう点からいって電通大の学生にはぜひ弊社にも入社してほしいと思います。

中途採用ではどうですか。

竹内  中途採用の面接スタンスは新卒とは全く違います。まず応募者が目指していることが会社の方向性と合致しているかどうかを確認します。人間対人間として話しながら,真摯さ,素直さ,誠実さ,吸収力,軌道修正力を見ます。この人に船を任せたとして,メンバーが乗り込みたいと言わせる力があるか。メンバーのことを考える柔軟性があるかどうか。そういう点を見ながら話をします。

竹内さんのお話には「船」「レイヤー」といった喩えがよく出てきますね。

竹内  そんなに頑張らなくても良いじゃん,流れに乗っていれば良いじゃないか,という考え方もあります。でも私はビズリーチに集まってくれたメンバーをもっと良い世界,楽しい所,新しいステージに連れて行きたい。その思いがモチベーションです。このメンバーを上に引き上げたい,そのために戦略を考えます。ビズリーチは船です。その船に乗り込んだメンバーを今の状態から新しいステージ(レイヤー)に連れて行きたい,という思いです。

新しいステージとは何ですか。

竹内  その人自身の力,人間力,ビジネスパーソンとしての力をビズリーチで高めれば,経済活動の中で生きるスキルが高まります。どこに行っても通用する人間になれる。世界が広がります。だからこの会社に入ったら死に物狂いでやってもらいたい。小さな会社を成長させるプロセスで学び,成功のプロセスを体験することが力になるはずです。そのプロセスでは多くの人をマネジメントする経験もできるでしょう。すると大きな気づきが得られるはずです。成長するチームの中で自分を鍛えれば,アセット(資産)が残ります。独り立ちしたとき,自分の実力に気づけるでしょう。

ありがとうございました。

竹内真(たけうち・しん)
高知県出身。
小学校5年生の時,マンガ「こんにちはマイコン」に出会い,プログラミングをスタート。両親が経営する事業の税務申告書類の作成を担当するなど、早い段階からビジネスに興味を持つ。高校時代から数学マニア。
2001年、電気通信大学情報工学科を卒業後、富士ソフトABC株式会社(現富士ソフト)に入社し、エンタープライズサービスを中心にさまざまなソフトウェアを開発。
富士ソフトを2007年に退職後は、フリーエンジニアとして株式会社リクルートの基盤フレームワーク開発などに従事。
2008年には株式会社ビズリーチの創業に参画しCTOとしてサービス開発を手掛け、また同年、Web開発・制作会社である株式会社レイハウオリを設立し、代表取締役に就任。
2010年に「LUXA(ルクサ)」創業に伴い、同社CTOとして約1年半の間立ち上げに従事。現在は株式会社レイハウオリ代表取締役と株式会社ビズリーチ・株式会社ルクサのCTOを兼任する。社外では、mobyletメインコミッターなどのOSS活動や、各種講演会やセミナー講師としても活躍。

【連載コラム】
・竹内真のCTO対談「BizHack」(エンジニアtype)
【Web、雑誌執筆】
・「MarkeZine」フロントエンド高速化について(翔泳社)
・「WEB+DB PRESS」vol.59 巻頭特集:Web高速化実況中継(技術評論社)
・「WEB+DB PRESS」vol.66 巻頭特集:我流コードからの卒業 HTML構造化指南(技術評論社)