UEC-IM(URA)インタビューシリーズ No.002

学生時代も社会人でも
好きな事に没頭する時間を持つことが幸せ。

電気通信大学特任教授 光川寛(みつかわ・ひろし)

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電通大特任教授の光川寛先生に,学生へのメッセージを4つのポイントにまとめて語ってもらった。第1は「食わず嫌い」はやめて取り組んでみることの大切さ,第2は恥をかくことの大切さ,第3はTPOに応じた振る舞いの重要性,第4は専門知識以外の政治・経済・社会の知見の重要性である。4点とも光川先生の体験から導き出された学生への知恵の言葉である。 

【2013年11月18日。写真と文/IM(URA) 安部博文)】

▲電通大のキャンパスにて。同僚の志茂武特任教授と。

電通大の学生に向けてメッセージをお願いします。

光川  結論から言うと,学生時代はもちろん社会人になってからも好きな事を持ってそれに没頭する時間を持つことが前向きの成長にはとても大事だ,ということです。年齢を重ねるにつれてそのように感じていますよ(笑い)。
私は鉱物が好きで秋田大学の工学部鉱山学科に進みました。将来は地球を対象にする研究者になりたかったのです。研究者になるには大学院に進むのが常道です。しかし,私は親の面倒を見るため収入の確保を優先したかった。そこで,まず就職し,それから研究者の道を志そうと考えました。就職先は当時の通商産業省(現在の経済産業省)でした。ところが,公務員試験に合格しても,研究職に行きたければ博士号あるいは修士号が必要だ,というのです。入り口の段階からシャットアウトされたという思いがして非常に残念でした。それで,今はダメだとしても2,3年のうちに研究部門に移れるように頑張ろう,数年の遅れなら取り戻せる,なんて考えてました。

諦めなかったわけですね

光川  それほど考えが整理できていたわけではありませんでした。入省して2年ちかくは研究部門に移りたいという思いが強かったですね。しかし,配属されたセクションで扱う内容が資源・環境・公害・材料などで私が好きな地球・地質・鉱物分野に近い領域だったのです。自然,一生懸命やるようになりました。研究部門に移りたい気持ちを持ちつつも,職場の仕事が面白くなっていきました。すると回りも期待する。だんだんと抜けにくくなる(笑い)。結果的に,3年目からは研究部門への移籍の熱は去り,鉱物はライフワークとして位置づけ,仕事は仕事として熱中するようになりました。

自分の専門領域があると強い。

光川  そうだと思います。職場で与えられた仕事は,最初は嫌かも知れない。でも「食わず嫌い」という言葉もあります。とにかくやってみてはどうか。思い切り,しかも楽しくやることで仕事の成果は出ます。ですから,仕事を自分の好きな領域に近づけて捉え,やってみること。私の回りを見ても,好きなことにのめり込んでやれている人は幸せそうです。最初は好きかどうかなんて分かりません。でもやっているうちに得意分野とオーバーラップすることが出て来たりします。だんだん違和感がなくなって来る。もちろん,夢をかなえるために諦めずに移籍するほうが良ければ移籍すれば良いと思います。以上の話は私の場合の話です。

食わず嫌いになるな。仕事が与えられたらとにかくやってみること,というメッセージですね。

光川  そうです。学生は自分の専門領域を狭く捉えがちです。専門はこれこれだから,その知識が活かせるのはここしかない,みたいな捉え方。確かにその通りの面があるのでしょう。ただ,もっと広くとらえるほうが,良いのではないか,と言いたいのです。嫌な仕事だと思っていたことでも,しばらくやっているうちに面白くなる。そういう受け止め方のほうがハッピーな結果になるのではありませんか。以上がお伝えしたい1点目。

はい。ありがとうございます。では2点目をお願いします。

光川  はい。今回お伝えしたい2点目は,恥をかくことはその時は嫌でも,後になると良い結果になることが多い,だから恥をかくことを恐れすぎないように,という話です。先にお話したように,私は理系で通産省に入りました。入省した同期の人たちで文系の人は,それはもう弁の立つ人たちばかりです。我々理工系学生の言い分としては「黒を白」なんて議論はできない,ということです。ところが文系の人はそれができてしまう。理工系の我々から見ると,不思議です(笑い)。でも,そういう人たちと議論した後になって,自分を振り返ると,もっと上手く伝える言い方があったのに,と思うわけですね。あるいは企業人との議論の場でも同じです。なかなかうまく喋れない。恥をかく。企業の方が,あなたの言いたいのはこういうことですね,と助け船を出してくれたりする。知識の量も足らないし,説明する技術も未熟なため,こういうことになる。でも,人はこうやって恥をかきながら成長するのだと考えれば良いのです。よく学校でも授業中,先生に指名されて,立ち往生する人がいますね。あれは聞かれたことが分かってないわけではないけれど,頭が真っ白になってしまっているんです。私は,こういう人ほど,奥行きの深い考え方ができるようになる人だ,と考えています。人前で恥をかくのは良いこと。そこから逃げないようにと言いたい。

人前でうまく喋れない経験は後々の糧になる。だから,今のうちに恥をかくのは良いこと,ということですね。

光川  そうです。では次に参りましょうか。

はい,3点目をお願いします。

光川  3点目は,TPOを弁えることの大切さについてお伝えしたい。TPOとは時・場所・場面のことです。今まで多くのいろんな分野での一流の方とお目にかかってきました。その方々に共通しているのが,身なりや行動がTPOに則っている,ということです。スポーツ分野の人であれば単に強ければ良い,学者であれば合理的でありさえすれば良い,という極端な人はあまりいませんでした。何らかの分野で専門的な能力が高い学生で身なりや挨拶は不要という人がいます。それで人に不快な思いをさせないのであれば問題ありません。でも何かの正式な集まりに出席する場合やチームワークが必要な時,回りに違和感というか不快な感じを与えないくらいの配慮は必要です。こういう話をすると,厳しいとか,不快の尺度は人によって異なるとか,反発が出てきます。TPOに則る行動するほうが,その人のためになると思って言っていることなので,そうではないと思うのであれば思うように行動すれば良い。でも,ゼミ訪問や会社訪問の時に,相手に挨拶もしない,スリッパ履きで行く,そう行動したらどうなりますか。相手はどう感じるでしょう。挨拶しないとか身なりに構わないという形で主張するより,仕事の中味でガンガンやったほうが自分のためにも社会のためにもなるのではないでしょうか。

社会で自分が生き延びるための戦略として挨拶,服装を捉えると,それを意識するということは社会の仲間であることを表現する活動ですよね。それをやらないというのは無防備な行動のように見えます。

光川  挨拶せよとか身だしなみに気をつけよとか言われるのは誰でも面白くないですよね(笑い)。それでも最小限のTPOのルールを守るほうが良いよ,と言うのは,損をしてもらいたくないからです。豊かな資質と知識を活かす上でTPOに応じた行動ができるのはデメリットにはなりませんから。逆はあっても。

社会は人が構成しているものです。人との関係を良いものにする配慮が大切です。

光川  そうですよ。世の中は持ちつ持たれつ。世界のルールの中で日本,企業,個人が動いています。ですから,これからの時代を読む上では,世界のどこが発展しているのか,という視点が大切です。

今日の4点目ですね。

光川  ええ,これを今日の最後にします(笑い)。何か事業を始めようとする場合,日本の市場だけを見ても発展性は大きくありません。世界の大市場は,インド,中国などこれから発展する地域への目配りが必要です。そして海外の人とビジネスの話をするときには,その人物の幅の広さが問われます。専門技術のことしか話題にできないようでは困ります。人脈の広さ,政治・経済・社会の動向を見据えたスケールの大きな考え方が大事です。ふだんから自分の幅の拡大を意識して欲しいと思います。

どうもありがとうございました。